市立図書館の電子図書館で借りていた 『裏切りの塔 G・K・チェスタトン作品集』 (チェスタトン 2021) を読み終わった。 チェスタートンの小説で未読のがあったのが (もしかしたら読んでいて忘れていたのかもしれないが) うれしい。 とくに最初の「高慢の樹」はすごかった。 イタリアに住んでいるアメリカ人、シプリアン・ペインターが狂言回しだ。 大地主ヴェインの家に招かれた彼は、 彼がこの地でみつけた詩人、トレハーンを同伴する。 待っていたのはヴェインとその娘、バーバラの他に、 アッシュ弁護士とブラウン博士という面々だった。 ヴェインは、 彼の先祖が植えたという「孔雀の木」に関する当地の 噂話を語る。 この地の人々はこの木を忌み嫌っている。 村の人たちは、村に起こる不幸をことごとくのこ木のせいにする。 ペインターは、 その木の前半生を語る奇譚を披露する。
傲慢な詩人トレハーンとその他の男たちの間の 口にはだされない不和、 その詩人に魅きつけられている様子のバーバラ・・・。 登場人物もほどよく配置され、物語はすすむ。 さて、 再び同じ面子であつまったとき、 大地主、ヴェインが、 孔雀の木がなんでもない、ただの木であることを 証明するために木の上で一晩すごすという。 ところが、 ヴェインが行方不明になってしまうのだ。
残りのページで、 高慢の木による「殺人事件」の真相があばかれてゆく。 たまたま『19世紀イタリア怪奇幻想短篇集』 (橋本 2021)を読んでいたので、 チェスタートンにまんまとひっかかってしまった。
あ・・・おもしろかった!
それに比べると最後の「裏切りの塔」は、 むだに登場人物が多くて、 なにが問題になっているのかよくわからなかった。 もう一度読んで、やっと「奇抜な殺人方法」の解明が問題になっていたことが わかった。 登場人物、多過ぎ!
『フルハウス 生命の全容ー四割打者の絶滅と進化の逆説』 (グールド 1998)を読み終わった。
そのテーマとは、 進化はランダムで、トレンドは存在しない、ということだ。 それを何度も何度もいろいろな角度から説明している。 なかなかに説得的だ。
四部構成だが、 第3部の「妥当な打者 四割打者の絶滅と野球技術の向上」は読まずに飛ばした。 テーマとしては同じことが繰り返されるだけだろうので、 野球について蘊蓄を聴かされるのはつらい。
『メグレと殺人者たち』 (2013)を読み終えた。 読み始めたとたんに Rowan Atkinson のメグレものの 一つだとわかった。
あ・つかれた。 いままで読んだメグレの最高作だと思う。 狂気のマリアがすごい・・・。
The Great Revolt (Doherty 2022)を読み終わった。 アセルスタン修道士シリーズ第16巻だ。 数巻前からあちこちでおきる農民の叛乱 (The Great Revolt)が物語の背景にあったが、 今度は叛乱の真っ只中(1381年6月)の物語である。
物語はドミニコ会の修道院からはじまる。 反乱軍はロンドンを包囲しており、いつでも入ってこれる状況だ。 院長から命ぜられた仕事をすべく、 アセルスタンはその修道院に滞在しているのだ。 そこはアセルスタンが教育を受けた場所である。 現在の王、リチャード二世(14歳)が、 彼の曾祖父エドワード二世を聖人に列したいという希望をもっており、 その調査を当該の修道院全体で行なっているところである。 調査チームの一員であるブラザーが殺されるという事件が起こる。 この殺人事件(およびそれに続くいくつかの殺人)を解くのが、もちろん、 アセルスタンに任されることになる。
反乱軍はとうとうロンドンに入りこみ、 役人、裕福な商人、外国人などを殺戮していく。 ロンドンの町は死体や首でいっぱいだ。 もはやロンドンは気軽に歩ける場所ではない。 そしてそこここで暴力が爆発する。 修道院に閉じ込められたアセルスタンには、 盟友サー・ジョンがどこにいるのか、 さては死んでいるのかさえも分からない。 さらに気がかりなのは、 彼の教区の人たちにどのような運命が降りかかっているのかということだ。 反乱軍の中で重要な地位をしめている男たちはどうしたのか。 美しい未亡人、ベネディクタはどうしているのか・・・。
物語は、 修道院の中の一連の殺人事件と、 それを取り巻く歴史的な叛乱という二つの流れの中を うねりながら進んでいく。 後半になると、一気よみだった。
これまでは「物語をいろどる可憐な花」でしかなかった ベネディクタの大活躍が嬉しかった。 拍手したくなってしまった。
『メグレと消えた死体』 (2012) を読み終わった。
メグレのもとに、 かつて彼が尋問をしたことのある女、 のっぽのエルネスティーヌが尋ねてくる。 その女を連行したのは、メグレがまだ若いころだ。 女はベッドの上で真っ裸になり、 メグレについていこうとはしなかった。
「わたしは自分ちにいるんだ。 暑いでしょ、 わたしには真裸になる権利が あるわ。
このままの格好であんたについてこいって言うんなら、 わたしはいっこうにさしつかえないわね」
少なくとも十回、彼は繰り返した。
「服を着ろ!」
うまい書き出しだなぁ・・・…
彼女によれば、 夫のアルフレッドが盗みにはいった家で死体を見たというのだ。 アルフレッドは巻きぞえを怖れて行くえをくらましている。 アルフレッドをつれもどすためにも、 是非ともこの殺人事件をメグレに解決してほしいというのだ。
アルフレッドの入った家はわかっている。 そこに住んでいるのは歯科医のギヨーム・セールと、 彼の年老いた母だけである。 数日前に家を出たというギヨームの妻が、 おそらくその死体なのだろう。 容疑者、ギヨーム・セールはメグレとおなじ重量級だ。 「トルコ人みたいな」巨大な男、ギヨームは、 メグレのどんな脅しにもまったく動じない。 彼を守る「修道女のような老女」も、まったくみじろぎもしない。 通常の脅しがきかないので、メグレはいらいらする。
有罪を確信しているメグレは、 徹底的な心理戦をしかける。 これ見よがしに刑事が彼を監視する。 鑑識が、違法すれすれ(というより違法そのもの)で ガレージに駐車している彼の車を検査をする。 ところが、 ギヨームは、この心理戦にもびくともしない。 日々不機嫌になっていくメグレに、 部下たちは戦々恐々としている。
そんな中、 決定的な証拠 --- それほど「決定的」だとも見えないのだが・・・(- -;) --- をつかんだメグレははしゃぎまわる。 幸せな気分で景色を見る ---
少しはなれたところに黒い柵と、 四角い芝生と、 修道院のように静かできちんと片づ いた家があった。
その家のどこかに、 修道院長みたいな老女とトルコ人みたいな男がいた。 この二人に メグレは仕返しをしてやるつもりだった。
人生は美しかった。
なんと・ま・てってい的に嫌らしい男なんだろう・・・。
そして、 部下たちの心配をよそに、 とうとうメグレは歯科医を逮捕する。 自白だけが頼りだ。 メグレは彼をいじめ抜く。 部下といれかわり立ち替わりで、 同じ質問を何度も何度も繰り返し、 彼が落ちるのを待つ。 しかし、トルコ人のような男は、ちっとも落ちる様子がみえない。
修道女のような老女、 ギヨームの母親は廊下で息子が解放されるのをじっと待っている。
メグレはとつぜん、その老女にくってかかる。
彼は、 たとえ高齢ではあっても、 彼女に向かって手を上げまいと努力しなければならなかった。 自分では無意識の笑いが老婦人の薄い唇の上に描かれたからだった。
「いや、嘘だ!」 と彼はどやしつけた。
なんて奴だ!
メグレの怒りは老婦人の上に降り注ぐ。 ・・・
彼女はおびえていた。 助けを求めるように口が開いた。
そうして・・・
『メグレと口の固い証人たち』 (シムノン 2013)を読み終わった。
ほとんど破産の瀬戸際にありながら、 二人の裕福な嫁たちからの援助によってなんとか 大ブルジョワとしてのプライドと見た目を保つラショーム家で 家長が殺された。 メグレは老夫婦と弟夫婦(小さな息子がいる)に聞き取りをするが、 彼らは頑なに口を閉ざす。 彼らは弁護士を呼び、 弁護士を通しての聞き取りだけを主張する。 さらに若く生意気な担当判事が捜査を仕切ろうとする。 警察による捜査は、すべて彼の目の前で、 彼の指図によってやれというのだ。 メグレは不機嫌になり、 いらいらと忍耐は限界に達しようとしている。
不愉快な人間ばかりに囲まれたメグレだが、 彼が唯一 好意的な目でみるのは、 数年前に家をでた末娘のヴェロニカだ。
白い部屋着からはみ出してしまっている大きな乳房はそれ自身生命をもち、 気分しだいで身震いしているようだった。 メグレにはそれを淫らというよりも、 陽気で、人のいい乳房と呼びたい気持だった。
捜査は、しかしながら、 このヴェロニカを傷つける形をとることによって、 一気に進展する・・・。
『ディープラーニング 学習する機械 ヤン・ルカン、人工知能を語る 』 (ヤン・ルカン 2021) を読んでいる。 まだ第2章「私の小史」までしか読んでいないが、 ここに〈なぜ私がこの本を読んでいるか〉を 書いておこう。
機械学習は最初 (たぶん1980年代、1990年代に)は connectionismと呼ばれた。 その後 「ニューラルネットワーク」と呼ばれるようになった。 世の中になかなか受け入れられなかったので、 2000年代に deep_learningに名前をかえた・・・ ということだ。
私が人工知能を勉強することによって知りたい事は、 〈人工知能にアブダクションの能力があるのか〉ということだ。 この疑問は、 〈赤ちゃんはいつアブダクションの能力を獲得するのか〉そして、 〈チンパンジーあるいはボノボにアブダクションの能力があるのか〉という 疑問と組になった疑問だ。
2017年に出た本(『心の進化を解明する』)のなかでデネットは、 ディープラーニングは知識をどんどん肥大させることはできるだろうが、 (気づきによって)1つ上の段階には行けない(だろう)と言っている。 すなわち、 デネットは「ディープラーニングにはアブダクションはない」と 言っているのだ。 これは「原理として無理」ということだろうか、 それとも「現在のところは無理」ということだろうか?
たまたまテーブルの上にころがっていた 『カラー図解 Raspberry Pi ではじめる機械学習 基礎からディープラーニングまで』 (金丸 隆志 2018) をぱらぱらとめくる。 こんな文章が目にとまった --- 「それ【ディープラーニング】までのニューラルネットワークや 機械学習では、 画像などの入力のうち「何が重要な特徴か」を人間が見つけて あらかじめ抽出しておく必要がありました。 これを前処理と言います。 ディープラーニングには この特徴抽出の前処理も人間の手を介さずに 自動で行なうことができるという性質があります。」 (p.22) これって、 規則の発見ではないだろうか! まるで、 人工知能はアブダクションができる!と言っているように見える。
ちょっとどきどきしてきた。
「教師なしの学習」が「アブダクション」に相当するのか、 がまず第一に解決すべきことだろう。
ヤン・ルカンの本を読みおわってから、 いろいろなことをまとめてみようと思う。 今日はここまで。
アメリカの殺し屋、 およびそれを追い掛けてきた FBI の人間が、 フランス語さえもしゃべれないくせに、 パリを我が物顔にのし歩く。 メグレは腹がたって、腹がたってしようがない。 いじけ刑事のロニョンが、 メグレを更にいらいらさせる。 もっとも冷静に見れば、わるいのはメグレだ。 メグレの歯ぎしりの音が聞こえてきそうな展開で、 にやにやしてしまう。
さいごの最後に、 メグレの癇癪(かんしゃく)大爆発! 犯人をかくまっていただけのアメリカ人の おばちゃんがメグレに怒りをぶちまけていたが、 正しいのはおばちゃんだ (^_^)
ぼくの住んでいる市の電子図書館で借りた 『青銅のランプの呪い』(ディクソン・カー)を読み終わった。 ものすごく時代がかった翻訳だけど (「お嬢」・・・!)、 読んでいくうちに気にならなくなった。 (かなり努力したのだ) 冒頭から中間くらいまで、なんとなくごたごたした流れだったが、 中盤を越えてどんどん面白くなっていく。 一つ目の謎(ヘレンの失踪)がとけていくのは とても気持ちがいい! 二つめ(サバン伯の失踪)はちとごたごたし過ぎているが、 ま・許してあげる。
《More . . .》Herald of Hell: A mystery set in Medieval London (A Brother Athelstan Medieval Mystery Book 15) (Doherty 2015) を読み終わった。 シリーズも15巻目、 いよいよ 1381年、農民叛乱の起きた年だ。 ロンドンの市中には反乱軍の首領たち、 Uplight Men, およびその歩兵たちが我が物顔で歩きまわる。
悪しき役人や暴利をむさぼる大商人たちに、 その死を予告する地獄の使者 ("Herald of Hell" --- これが本のタイトルだ)が出没する。 今日あすにでも叛乱軍が市中になだれこむかもしれない・・・ そんな緊迫した状況だ。
そのような状況な中で、 ジョン・クラストン検屍官(「検屍官」というより「警視総監」みたいな 役所(やくどころ))と アセルスタン修道士とは、いつも通りに 殺人事件の謎解きをする。 ちょっと(戦争の最中の警察活動を描く)Foyl's War みたいな セッティングともいえる。
謎解きの方もそれなりに面白かったのだが、 (密室は期待しないように・・・) やはり背景となる叛乱の話の急展開がおもしろい。 史上最大の裏切りがにおわされ、 そして、 叛乱軍との中で (これまでは「美しく優しい」としか描かれなかった) うつくしき未亡人、 ベンディクタの新しい側面が示される。
崖の上の邸宅にすむ美少女真佐子、 崖の下の金魚屋のあと継ぎ、 復一の不思議な恋物語だ。
復一が、 おやと思うとたんに少女の袂の中から出た拳がぱっと開いて、 復一はたちまち桜の花びらの狼藉を満面に冠った。 少し飛び退って、 「こうすればいいの!」少女はきくきく笑いながら逃げ去った。
いくつかの花びらが復一の口の中にはいた。 復一はぺっぺっとそれらをはいたのだが、 上顎の奥にはさまっていつまでも除くことのできない一枚があった。 復一は、この後何度も、 この花びらの感触を思い出すこととなる。
幻の世界に生きている、 現実にすこしだけ顔をだしている真佐子と、 幻の世界だけに存在する金魚、「赫耶姫(かぐやひめ)」との 重ねあわせが美しい。
和金の清洒な顔付きと背肉の盛り上りを持ち 胸と腹は琉金の豊饒の感じを保っている。
鰭は神女の裳のように胴を包んでたゆたい、 体色は塗り立てのような鮮かな五彩を粧い、 別けて必要なのは西班牙の舞妓のボエールのような斑黒点がコケティッシュな間隔で振り撒かれなければならなかった。
[20:15:32] 『死の招待』 2つ目 「ブービートラップ」 読了(枚方市の 電子図書館から借りてたやつ)。 内容は Foyle's War みたいな、 戦時中の犯罪捜査のはなし。 まぁまぁかな。