泡坂妻夫の書くものは ミステリーとして欠けているものはない。 謎も、謎解きもすばらしく、 小道具や、蘊蓄もたいしたものだ。 小説自体への仕掛けもびっくりするような出来である。 登場自分の性格の書き込みは(すばらしいわけではないが) とくに問題はないと思う。 にも関わらず・・・ どの作品も物足りない。 「かけ違い」とでも言いたくなるような、 もどかしい感じがするのだ。 そのような感じがまったくしないのが この作品だ。 一言でいうと「粋」である。 他の作品では「いっしょうけんめい」というコトバが あてはまるような書き方だったのだが、 この作品はごくごく自然に粋が浮き出てくる。 『夢裡庵先生捕物帳』も同じように いい出来であることを考えると、 おそらく「時代小説」という枠組が、 作者にとって必須なんじゃないかしらん、と考えた。
[20:34] Brother Athelstan の教区ではいつもの通りいろんな問題が起きている。 Ranulf the Rat-catcher が、 ネズミ取り組合(Guild)を作りたいという。 そしてそのギルドの本拠地を Athelstan の教会 St Erconwals としたいという。 豚はいつもの通り教会の畑をあらしている。 一番の問題は、 教区の大物、 Watkin the dung-collector と Pike the ditcher が巻き込まれた Great Realm (農民の叛乱軍)関連の陰謀だ。 さらに、 Sir John Cranston が拾ってきて、 Athelston の庇護のもとに置いた 山羊 Judah (Thaddeus に名前を変えた)と ホームレスの Godbless たちが、 教区で展開する裏の筋を支える。 表の筋、Athelstan が Sir John の相棒として 関わる筋は: Sir Maurice の率いる船が拿捕し、沈めた 2隻のフランス船の捕虜をめぐる 英仏のやり取りだ。 ここには 摂政 John of Gaunt と 英国スパイの総大将 Gervase Talbot とが 深くかかわる。 そして、三つめの物語は Sir Maurice と、 大富豪 Thomas Parr の娘 Lady Angelica の間の恋の物語だ。
この幾重にもこんぐらがった 物語と謎を、 Athelstan が(Sir John そして黒猫 Boventure 、 山羊の Thaddeus、もとホームレスの Godbless といっしょに)解いていく。 ひどくこんがらがった話にもかかわらず 謎はすっきりと解けた。 とても嬉しかったのは、 いつもの14世紀ロンドンの汚なさの描写が あまりなかったことだ。 作者が歴史学者で、 描きたくてしようがないのだろうが・・・ やめてほしい。 美しき未亡人 Benedicta がほとんど 出てこなかったのが寂しい。