モームの『雨』 を読みおわった。 「雨」の筋は、もちろん、知っている。 それでも、ドキドキしながら読んだ。 ミス・トムソンの琴姫七変化みたいな変貌が楽しい。 ミストムソン役には1980年代のシンディー・ローパーがいいかな。
「ホノルル」。 「聡明な旅行者というものは想像だけの旅行をするものである」という 有名な書き出しの物語だ。 ホノルルで「わたし」が出会った 不細工な白人、バトラー船長と、 とても彼に似つかわしくない美しい原住民の娘、 原住民の航海士、無骨なバナナ。 「わたし」は彼らにまつわる恋物語を聞かされる。 落ちがたのしい。
「東洋航路」。 中年の女性、ハリスン夫人の物語。 物語は船が着いたシンガポールの楽しい描写から始まる。 --- 「マレー人、 これはここの土着の住民なのであるが、 おどおどしたように場末に住んでいて、 数も少ない。 街頭にむらがっているのは、調子のよい、すばしこくて 勤勉な中国人である。 色の黒いタミル人は、まるで他国にほんのしばらく 滞在している旅人みたいに、 ひっそりと裸足(はだし)で歩いているが、 瀟洒で裕福なベンガル人は、その環境のなかで楽々としており、 自信たっぷりである。 狡猾で人にとり入ることのうまい日本人は、 何か急な秘密の用件で忙しそうだ。」
ハリスン夫人は夫の浮気を機にマレーを出て、 イングランドに帰るところだった。
醒めることを分かっている中年の恋の物語、 「いかにもモーム」。