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中川 敏

1 序
1.1 これまで
1.2 これから

2 二つの「経済」
2.1 タイのバザールでの経験
2.2 フィリピンのマーケットにて

3 さまざまな「伝統的」交換
3.1 クラ
3.2 ギムワリ
3.3 ウリグブ
3.4 アベラム、アラペッシュ
3.5 シリオノ

4 ギアーツ
4.1 インヴォリューション
4.2 貧困の共有

5 スコット
5.1 農民のモラル・エコノミー

6 まとめ---埋め込まれた経済

Draft only ($Revision: 1.1.1.1 $ ($Date: 2008-11-28 03:02:48 $)).
(C) Satoshi Nakagawa
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1. 序

1.1 これまで

・・・・・ 【工事中】 ・・・・・

1.2 これから

2. 二つの「経済」

開発の失敗する理由は、 「文化」の違いに由来するのだ。

2.1 タイのバザールでの経験

・・・・・ 【工事中】 ・・・・・

2.2 フィリピンのマーケットにて

・・・・・ 【 [hara-geertz]より】 ・・・・・

3. さまざまな「伝統的」交換

人類学で最も有名な交換はおそらく ニューギニアのマッシムと呼ばれる地域で行われる 壮大な交易、クラであろう。 クラ交易圏の一つの中心地、トロブリアンド諸島において、 B .マリノフスキーによってクラは詳細に調査された。 [malinowski-argonauts-j]

3.1 クラ

3.1.1 地域

クラは広範な範囲を含む交易活動である。 それは、 ルイジアード島、ウッドラーク島、トロブリアンド諸島、 ダントルカストー島等を その圏内としてふくんでいる。

3.1.2 交易される財

交易されるのは、二種類の財である。 (1)一つはムワリとよばれる貝の腕輪である。 (2)もうひとつはソウラヴァ(あるいはバギ)と よばれる赤い貝の円盤形の首飾りです。

ムワリは常に反時計回りに、 ソウラヴァは時計回りに交易圏のなかを動く。

3.1.3 遠洋クラの実際

 クラには島と島との間で行われる遠洋クラと、地続きのコ ミュニティーの間で行われる島内クラとがある。 ここでは遠洋クラに話を限定する。

(1) ワガ(カヌー)つくり

遠洋クラは島と島の間の交易である。 たいへんに手の込んだカヌー(ワガ)を作ることから すべてのクラの作業は始まる。 ワガの所有者、トリ・ワガが作業の中心となり、 様々な呪術がほどこされて、ワガが完成する。

(2) 誰が出かけるか

 もらい手が、遠洋航海をするのがクラの決まりである。

(3) 途中の海

 もらい手のクラ・コミュニティーは何日間かの航海ののち に、クラ・パートナーのいる島に到着する。 この地域の人 々にとって、自分の島以外は、恐ろしい地域である。 人喰い人種や、 男を喰い物にする恐ろしい女性の住む島じまなのである。 クラ・パートナーは、その様な恐ろしい異郷の地における友人なのだ。

(4) 目的地到着

 クラ船団はクラ・パートナーの島につく客人は儀礼 的な歓迎をうける。

(5) クラ交換

 そののち、人々はそれぞれのクラ・パートナーから贈りも の---すなわちムワリないしソウラヴァを受け取るのである。贈 りものは様々な儀式的な手続きを経て行われる。 取り引きが成立するたびにほら貝が鳴らされるという。

(6) お返しのクラ

 半年くらいの間をおいて、 今度は先程はホストであった(そして贈りものの与え手であった) クラ・パートナーは海を越えて、 贈りものの受け手であった人達のところへ大航海をする。 そして、 違った種類の贈りものを彼らから受け取るのである。

3.1.4 クラの交渉のしかた

基本的に等価とされるようなものが交換されます。

 しかしクラは、あくまで「贈りもの」なのだ。 それゆえ、値引交渉とか、 もらったものが気にいらないとか、 そういったことは言ってはならない。 そして、もらったものは拒否できない--- それがクラのしきたりなのである。

3.2 ギムワリ

 遠洋クラ航海は、単にクラを行うだけの航海ではない。 同時に、 ギムワリと呼ばれる 「取り引き」の行われる大事な機会を 提供してくれるのである。

3.2.1 クラとギムワリ

 クラは、財宝すなわちムワリかソウラヴァをやり取りする 活動であるが、 それに対し、 ギムワリでは日常使うような生活の財を交換する。

 クラが行われることがわかった場合、 クラのホストとなるコミュニティーには、 回りのコミュニティーから、 ギムワリを目指して何人もの人がやってくるという。

3.2.2 誰とギムワリをするか

 クラは決まったクラ・パートナーとのみとり行われる。 それに対して、ギムワリをほとんどだれとでも行うことが出来る。 ギムワリをおこなってならないのは、 クラ・パートナーの間だけなのだ。

3.2.3 ギムワリのやり方

 ギムワリでは値引交渉をしたり、 もらったものが気にいらないとか、 大声で言ってもかまわないその様なたぐいの交換活動である。

3.2.4 クラとギムワリ

 ギムワリは、常にクラと同時に行われるので、 対照して語られることが多い。 クラのやり方を非難する一つの方法は、 「おまえはそれを、ギムワリのように行っている」と 非難することだという。 たとえば、必要な儀式的壮重さを欠いていたり、 贈られるものに関心を示し過ぎたりしたときに、そう言われるのだ。

3.3 ウリグブ

3.3.1 主食はヤムイモ

 この島々の住人の主食はヤム芋と呼ばれる、日本の山芋の 仲間の芋である。 彼らは非常な精力を、 実際必要以上の精力を、 そそぎ込んでこの芋を作る。 そして、出来上がった芋のうちで見事な芋は、 特別の小屋に展示されるという。

3.3.2 ウリグブ

そのようにして丹精こめて作られた芋も、 実は自分で食べるための物ではない。 それらは、基本的に、姉妹の夫に贈られる。 この贈物をウリグブと呼ぶ。 それでは、 彼はどの様にして「食べていく」のだろうか。 もちろん、 自分の妻の兄弟達からのウリグブを待つのである。

3.3.3 トロブリアンドの人生論

 一人の人間の存在は、人から助けられて初めて可能である、 というテーゼは、 トロブリアンドの社会生活を貫く 一つの大きなモチーフとなっているのだ。

3.4 アベラム、アラペッシュ

 同じ様な例は、 同じくニューギニアの(本島)セピック川流域に住むアベラム族、 アラペッシュ族にも見いだすことが出来る。

他の人間の母親、
他の人間の姉妹、
他の人間の豚、
他の人間が積み上げたヤム芋、
それらのものを、おまえは食べてもよろしい

自分自身の母親、
自分自身の姉妹、
自分自身の豚
自分自身で積み上げたヤム芋、
それらのものを、おまえは食べてはならない

3.5 シリオノ

南米のボリビアに住むシリオノと呼ばれる人々は 採集・狩猟の生活を行っている。 狩猟は、彼らにとって、生活をかけた活動である。

 しかし、彼らの規範によれば、 自分でとった獲物は、決して自分で食べてはいけない、という。 また、アフリカの!クン・サンと呼ばれる狩猟採集の民族でも、 獲物は必ず共同体のなかでの分配が義務づけられています。

4. ギアーツ

「埋め込まれた経済」は 「伝統的な」経済に限られれているわけではあに。 「近代」の中に生きる、 すなわち資本主義に巻き込まれてしまった農民に根づいている 「埋め込まれた」経済について述べよう。

4.1 インヴォリューション

ギアーツ [geertz-involution-j]は ブーケの「二重経済」論に依拠しながら 議論をすすめる。 「二重経済」とは、 植民地において、(1)白人の資本主義と (2)現地民の伝統的経済が両立している状況を指す ブーケの言葉である。

まずギアーツ自身による『インボリューション』の議論のまとめを 追っていこう。・・・・・ 【工事中】 ・・・・・

4.2 貧困の共有

非合理な雇用

ルクンの確認をするスラマタン

5. スコット

スコットの議論によるベトナムの農民の 埋め込まれた経済について紹介しよう。

5.1 農民のモラル・エコノミー

「保守的である」というイメージの強い農民たちが、 しばしば叛乱を起こし、さらには革命の担い手となる。 1 なぜだろう…『農民のモラル・エコノミー』 [scott-moral-economy] はそのような問いに対するひとつの解答を示す。

スコットは、 本の冒頭で、トーニーの 『中国の土地と労働』の一節を引く:

農民の状況が、 ほんのちょっとしたさざ波で溺れてしまうほどに 首まで水につかった男という比喩がちょうどいいような状況である ような地域がいくつかあるのだ。 [tawny-land: 77]

スコットは、このような (のどまで水につかっているような、 生存ぎりぎりの)農民の 経済について書く。

スコットの議論を簡単にまとめると次のようになる: 生存すれすれの状態で生きる (スコットの場合、マレーシアの)農民の共同体は独特の価値観をもつ。 それは、(個人所有と対照的な)集団的な価値観である。 危険回避原則、互酬性倫理、平等、共同体の維持、 そして、とりわけ、生存へ権利から成るものである。 市場経済が農民社会に浸透するとき、 このような価値観が破壊されてしまうことに農民は危機感を覚え、 また怒りを感じる。 それが日常的抵抗・あるいはまた革命へと続くのだ、と (たとえば、 [bates-curry-community: 457]を参照せよ)。

農民の叛乱を理解するには、 農民がモラルエコノミーに基いて行動していることを 理解しなければならない、というわけだ。

6. まとめ---埋め込まれた経済

・・・・・ 【モノの有名性】 ・・・・・


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Bibliography

[geertz-involution-j] ギアーツ C.
インボリューション--内に向かう発展. NTT出版, 2001 (1963).
[cohn-play] Bernard S. Cohn.
History and anthropology: The state of play. Comparative Studies in Society and History, 22 no. 2 pp. 198-221, 1980.
[z.hobsbawm-j-92] E Hobsbawm and Terence O. Ranger, editors.
Invention of Tradition. Cambridge University Press, 1983.
[popkin-rational] Samuel L. Popkin.
The Rational Peasant. University of California Press, Berkeley, 1979.
[schrauwers-moral-economy] Albert Schrauwers.
``It's not economical'': The market roots of a moral economy in highland Sulawesi. In Tania Murray Li, editor, Transforming Indonesian Uplands: Marginality, Power and Production, volume 4 of Studies in Environmental Anthropology, pages 105-130. Harwood Academic Press, Australia, Canada, China, France, Germany, India, Japan, Luxembourg, Malaysia, The Netherlands, Russia, Singapore, Switzerland, 1999.
[trevor-roper-j-92] トレヴァーローパー, H.
伝統の捏造 -- スコットランド高地の伝統. In [z.hobsbawm-j-92], pages 29-72.
[stuart-ohmura-yasei] スチュアート ヘンリ and 大村 敬一.
「野生」をめぐるイメージの虚実. In スチュワート ヘンリ, editor, 「野生」の誕生--未開イメージの歴史, pages 1-26. 世界思想社, 京都, 2003.
[hobsbawm-j-92] ホブズボウム, E.
序論 -- 伝統は創り出される. In [z.hobsbawm-j-92], pages 9-28.
[miyauchi-seikatsu] 宮内 泰介.
住民の生活戦略とコモンズ--ソロモン諸島の事例 から. In 井上 真 and 宮内 泰介, editors, コモンズの社会学--森・川・海の資源共同管理を 考える, pages 144-164. 新曜社, 2001.

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ENDNOTES

[1] スコットの議論の背景には ベトナム戦争がある。 [Back]