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(C) Satoshi Nakagawa
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この発表では文化を自然化することが どのようなことなのか、 とりわけどのような問題を克服しなければならないのか について述べる。 文化を自然化するとは、 自然主義的態度のなかで対象 (すなわち文化)にせまることである。 わたしがこのようなアプローチの模範としたいのは、 哲学の自然主義である。 パピノーによれば、 哲学の自然主義には方法論的アスペクトと 存在論的なアスペクトがある。 方法論的には、自然主義とは 「自然科学と哲学が、基本的に同種の問題に、 同じような方法を使い、同じような目標をもって、 関与している」という考え方としてまとめることができる。 同じように、 自然科学と同じ方法をつかって、 文化に対処しようというのが、 「文化の自然化」というフレーズで、 わたしの言いたいことである。 それは、 哲学の中で試みられたきた 「心の自然化」(ドレツケ)や 「意味の自然化」(ミリカン)などの 延長線上にある試みであるととらえたい。
人類学的に言い直そう。 あるいはある人類学者、わたし、に焦点をあてて、 言い直そう。 わたしがこれまでに採用してきた文化に対する方法(「構造主義」)を、 わたしはしばしばレヴィ=ストロースを引用することで 正当化してきた:「世界への知識はじょじょに 獲得されたが、 世界の意味は一気にあらわれた」と。 この引用は「モース論文集への序文」の中の記述だが、 それはモースの「全体的社会事実」を背景にした発言であるのは明らかである。 そして、モースの考え方はデュルケムの (個人の外側に実在する)社会という考え方を 背景にしている。 デネットはこのような考え方を「スカイフック」と呼ぶ。 天から降りてきたフックが突然あるモノを高次のモノへとひきあげるのだ。 個人がさまざまに、そして非常に複雑なやり方で、 相互に関与していく、 そのうちに突然 Voila!社会が、あるいは意味が、あるいは文化が生まれている、 これがスカイフックである。 そのような考え方は自然主義の中では ゆるされない、とデネットは言う。 デネットがスカイフックの代わりに提唱する方法は 「クレーン」である。 それはそのモノ自身が自らの力で高次へと発展していく仕方である。 デュルケムに対して論陣をはった タルドの方法論がクレーンの典型と言えよう。 社会は個人の外側に存在するのではなく、 あくまで個人が社会を作っていくのである、という (言わば)あたり前の主張である。 文化を自然化するとは、 「世界の意味もまた (科学による知識の獲得と同じように) じょじょに獲得された」のだと考えることである。
パピノーにもどろう。 自然主義のもう一つのアスペクト、 存在論のアスペクトについてである。 自然主義の存在論に関してはいくつかのバリエーションがあるのだが、 わたしは物理主義(それもかなり素朴な物理主義)を採用したい。 簡単に言えば、 物理学、化学、生物学などの自然科学が認める存在者のみを 存在者として認める、ということである。 もしろん心も意味も文化も自然科学の中に存在しないので、 それらは物理主義の存在者によって あらためて説明されなくてはならないのだ。 これもまた当り前すぎるただし書だが、 妖術師も精霊も呪術も存在しない。
人類学の自然主義的転回が 多大の困難を引き起こすことは予見できるだろう。 すぐに思いつく例を挙げよう --- われわれの生活世界(文化の世界)は 規範の世界である。 自然科学の扱う因果の世界に規範は存在しない。 「いかにして因果から規範が発生するのか」を説明する、 という大問題である。 ヒントは生物学、とりわけ進化論の中にあるだろう。 この問題は自然主義の哲学の中で活発に議論されている。 この発表では、 人類学にとってより馴染みの問題を取り上げたい。 記号の、とりわけ言語の、問題である。
たとえば、 ミリカンの生物学的意味論は、 自然主義的に意味の発生を説明する理論である。 構造主義の人類学から見た、 この理論に対する不満点は、 (パースの分類を借りれば)指標から象徴への過程が 見えない、という点である。 ミリカンの議論では指標としての記号の発生は説明できるのだが、 象徴(ソシュール風に言えば「恣意性」)の発生が 説明できないのである。 この発表は、 この象徴、恣意性の発生という問題が、 いかに自然主義の中で重要であるかという点を、 コネクショニズムや サブサンプション・アーキテクチャの 例などと重ねながら明かにしていきたい。
文化 自然化 言語 インデックス シンボル
Culture naturalizing index symbol
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