人類学とはどんな学問か

Satoshi Nakagawa

1 はじめに

まず簡単にあなたがたが入学した人間科学部について紹介しましょう。キャッチフレーズは「文理融合」です。すなわち、1つの学部で、自然科学も社会科学もそして人文科学も学ぶことができるのです。

当学部の歴史と改組(2015/6年)については学部長の本先生が来週の講義で詳しく話してくれると思います。

つぎに、具体的に、この学部がどのように構成されているかを紹介します。当学部は、4つの(「学科目」と呼ばれる)グループに分かれます。行動学科目—自然科学と社会科学(心理学)教育学科目—人文科学(心理学)社会学科目—社会科学(統計学)、人文科学共生学科目(グローバル人間学科目)、自然科学と社会科学と人文科学

人類学者である社会学科目:社会学と哲学と人類学きょうはわたしの人類学について語ろう

2 人類学とは

伝統社会(ぼくらの社会と違った社会で)フィールドワークをするその社会の考え方(文化)をさぐることにより、「ぼくらの社会」が「あたり前」ではないことを示す

東部インドネシア

インドネシア東部フローレス島(四国くらいの大きさ)の中央に住むエンデという人々 1979年にはじめて訪れて、 2年間を過ごした

東西の長さはアメリカと同じくらい(三つの時間帯)たくさんの言語と文化(→ 国と言語/文化をいっしょにするのはやめよう)ほとんどすべての人がバイリンガルです(国語のインドネシア語と地方語)

フローレス島のまわり

首都のジャカルタやバリではフローレス島があることを知っている人はごくわずか顔が違う(ジャワとパプア・ニューギニアとの中間みたい)フローレス島は四国くらいの大きさに、いっぱいの言語(太平洋ではもっと小さい島にもっとたくさんの言語があるのはざら)町(県庁所在地)の人の多くは「インドネシア人」。彼らは村の人がどんな生活をしているのかさえしらない。村の人の言語もしらない。

とっても山勝ちな地形わたしの村は例外的に平たい広場がある

ここで20分くらいのスライド上演をする。

モノに名前があること贈与の社会であること生活範囲はほとんどが親族分業はないかつては(1980年代くらいには)現金はほとんど使われることはなかった

3 贈与と市場

経済という面からみると、わたしたちのいま暮している社会は市場志向の社会である。それに対して、エンデ、あるいは多くの伝統社会は贈与志向の社会である人類学は贈与志向の社会を、わたしたちの社会と対比させることによって、わたしたちの「当たり前」を揺がせるのである

3.1 市場社会

市場が「死活」の問題人と人のあいだに市場が介在する君は労働を市場に投入して、市場からお金をとりだす君はお金を市場に投入して、市場から食料をとりだす

市場と生活

きみらの周りのモノには名前がない生産者は労働の成果を市場に投入し、お金をひきだしている(モノは生産者から切り離される)きみはお金と交換にこのモノをとりだす

最大の利益、最小の損失同じモノなら、安い所で買う(数値化)同じ値段なら、いいモノを買う(数値化)等価交換(数値化)気にいらないモノを取り替える気にいらないモノを捨てる(モノは生産者から切り離されている)

周辺にある(クリスマスやバレンタインなど)死活にはかかわらない(市場がないと生きていけないが、クリスマスがなくても生きていける)

市場:バイト:(店主側から)数値化して比較する贈与:お手伝い:数値化などしない→比較できない、「かけがえのない『あなた』」

モノには与え手の人格がくっついている(プレゼントは捨てられない)数値化しない(お手伝い)『ソフィの選択』等価交換しない(バレンタインのお返し)最大の損失(「賢者の贈り物」)

ノミの市にお婆ちゃんの形見を出す人はいないプレゼントにいらなくなった冷蔵庫を出す人はいない

3.2 贈与の社会

ボリビアのシリオノは狩猟採集で生きている狩で獲物はかならず村に持って帰るみなに分ける一つタブーがある:獲物をとった人は食べてはいけない誰かが獲物を取ってくるのを待つ

主食はヤム丹精こめて作り、すばらしいヤム芋は陳列するそれらは自分では食べない姉妹の夫にあたえるこれをウリグブという自分は、妻の兄弟からのウリグブを待つ

自分のものを自分だけで消費することは許されない

危機になればなるほど、この規則は厳守される

ご返杯フランスのワインオーストラリアのラウンド

ベモの中のタバコ

4 思想としての贈与と市場

4.1 市場と贈与の思想

市場:自立した個人を大切にする贈与:人と人との繋りを大事にする

4.2 ヨーロッパ近代思想史の中で

啓蒙主義:カント、思惟、自律した自己ロマン主義:ヘルダー、感性、表現する自己

啓蒙主義—根源的な自律としての自由が最高善ロマン主義—文化的共同体内で統一的な自己を表現する

4.3 現在の対立

リベラリズム:(ロールズ)正義の社会 → 個人志向コミュニタリアニズム:(サンデル)善の社会 → 社会志向

4.4 悪い社会

(サンデル)保育園の例すべてが数値化される/すべてが金で買える

社会が最優先され、個人が無視される → 全体主義

「愛の共同体」→ 「あなた逃げるのね」「花見の自粛」→ 「花見の自粛の強制」

4.5 何がいい社会か?

自分で考えなさい

中心になる思想はどちら(市場でも贈与でもリベラリズムでもコミュニタリアニズムでも)かまわない周辺にかならず「息抜き」の場(市場なら贈与が、贈与なら市場が)

5 References