1

2 性と食事(デサナ)

即ち、男は女をはらませ、女の方は子を生むわけだが、この循環現象と同じで、もっと小規模で速やかなのが食物の循環である。(『デサナ』三〇六頁) [(植島 1998: 978)に引用]

3 性行為

3.1 アナル・セックス、後背位

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ヨーロッパに於て``男子婦女の非処を犯せし記’’ (要するにアナル・セックスであろう)は非常に多かったことが知られている。それはキリスト教化した後もかなり頻繁に行なわれていたようである。その証拠に、十一世紀頃のアンジェールの懺法には

妻を後方行犯すれば、40日、非道行犯すれば3年の懺悔を課する。

とわざわざ規定されているのである。もちろん、後方行犯とは後背位による性交、非道行犯とはアナルセックスの意であろう。 (植島 1998: 129)

3.2 同性愛

男と男の同性愛はイギリスでは、法律で規制されていた。(即ち、同性愛行為中のカップルを逮捕できるのだ) ―女と女の同性愛に関する法はなかったという(オーストラリアでの聞き書き)。

4 性行為肯定社会(須藤:54ー)

4.1 トロブリアンド

マリノフスキーは次のように記述している。「貞節とはこの原住民に知られざる徳である。信じがたいほど小さな内に、彼らは性生活の手ほどきを受ける。無邪気に見える子供の遊戯も見かけほど無害なものではない。成長するにしたがって、乱婚的な自由恋愛の生活に入り、それがしだいにかなり恒久的な愛情に発展し、その一つが結婚に終るのである。」 (Malinowski 1922) トロブリアンドでは少女は6−8歳から思春期まで性的遊びにふけり続ける。彼女たちの方から少年に性的攻撃をしかけたりもする。

4.2 トラック諸島(ミクロネシア)

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ミクロネシアのトラック社会では、少女が初潮を迎えるには性交の回数を重ねなければならないと考えられている。女性が配偶者を選ぶ条件は、男性の性的な強さによって左右される。そのため少年は、性器を立派にしたり、異性とのデートに夜這棒なるものを用いて工夫をこらした。彼らは思春期を過ぎても農耕での働き手として期待されず、性を中心とした生活に没頭できる。 (須藤 1988)

4.3 マンガイア(ポリネシア)

男性には性交によって繰り返し射精し、男らしさを誇示することが期待される。一回の性交で女性を何回オーガズムにいたらせるかが男性の評価になる。男女とも婚前性交が奨励され、相手の肉体的な魅力とエロティックな刺激により性欲がかきたてられると性交が行なわれ、性関係が満足なものであれば、相手への愛情が育つ。結婚後においても、性関係が印象的であった古い恋人に会うことも大目にみられている。(Marshall、1971)

4.4 ムリア(インド、非ヒンドゥー教徒)

ムリア社会には、思春期の男女が自由に交流する「寝宿」があった。ムリア社会では淫乱という考え方がなく、年長者がパートナーを組み合わせたりする。

4.5 チュア族(北ローデシア)

チュア族の子供も村外に小屋を立て、「夫婦ごっこ」を行なう。男女とも結婚するまで相手を変えて性関係をもつ。これは、子供が早期に性の訓練を始めないと子孫を持てないという観念に基づいている。(Diamond,1984;Ford&Beach,1951)

5 性行為否定社会

5.1 19世紀ヴィクトリア朝のイギリス

「女性には性欲がない」とか「オーガズムを経験する女性は片輪」などという観念が広く信じられた。一方で、「生めよ、殖えよ、地に満てよ」という神の意にそうために、性交渉は夫婦が子供を生むための行為として許された。但し、夫婦が性交意を楽しむことは認められなかった。 (須藤 1988: 53)

5.2 アイルランド

アイルランドのアイニス・ビーグ村(仮名)では、現在でも性行動は極力避けるべきものであると考えられている。これはローマン・カトリック教会の禁令が強い影響を及ぼし、牧師がふしだらな者を呪いにかけると言って教区民を脅かし、密告を督促したからだという。そのため、公共の場で男女は別の席につき、両性が参加する社交の場は全くない。男性は性交は身体を衰退させるものと考え、仕事をする前の夜は妻と性関係を持たないと言うし、女性もオーガズムがないのが普通である(Messenger,1971)。

5.3 クォマ族(ニュー・ギニア)

そのような行為を[少年が性器を指で触ったり、マスターベーションをすること]する少年は棒や鞭で打たれ、厳しく戒められる。これは、少年が成人に達するまで精液を身体に充満しておかなければならないという観念と結びついている。精液の消耗が男性らしさの損失になるからである。

5.4 アシャンティ(ガーナ)、アピナエ(ブラジル)

思春期の男女の性的行動が規制される。アシャンティでは当事者は死刑に値するといわれ、婚前交渉は禁止されている。

5.5 ワビシマナ(アフリカ)

性交渉を結婚とみなすため、付添い人のいないときには若い男女をいっしょに遊ばせたり、交際させない。

5.6 ホピ(アメリカ・インディアン)

娘を家庭に閉じ込め老女がつきっきりで監視する。

5.7 海岸(イスラム)エンデ(東インドネシア)

アナ・ンブカ

5.8 ギルバート社会(ミクロネシア)

かつて未婚女性の貞操が重視され、もし女性が誘惑され、それがおおっぴらになると、二人は殺されたという。

5.9 ヴェッダ社会(スリランカ)

未婚の娘の親族は彼女と話している少年を見つけると、彼を殺してもよいと報告されている。(Ford&Beach,1951)

5.10 マヌス社会(ニューギニア)

思春期の男女の性だけでなく、夫婦間の性関係を否定する社会もある。ニューギニアのマヌス社会では、大戦前まで性行為は罪深い、下品で恥ずべき行為とみなしていた。すべての前戯は禁止され、夫は妻の胸に触れることもできないし、妻は性交を嫌悪し、子供を産むための義務として行なっていた。妻にとって子供を産むまでの性行動は苦痛以外のなにものでもなく、ミードは「ヴィクトリア朝時代の清教徒の女たちがしたように、恥で惨めな経験」であると報告している(Mead,1930)。

5.11 マエ・エンガ(ニューギニア高地)

男性が敵対関係にある集団(氏族)から妻を「盗み出す」。これは、男が「戦争する相手と結婚する」ために、結婚後も妻は夫に対して敵意や憎しみを抱き続けるという(Meggit,1965)。したがって、マヌスと同様に夫婦間での性関係を避けるのは精神的つながりが欠如するからとも考えられる。他方、ニューギニアの多くの社会では、精液を無意味に放出したり、月経や産血に代表されるけがれた存在である女性との性的交渉を持つことは、男性を衰弱させるという「性恐怖観念」があり、それが男女の性行動を抑制する規範になっている(杉島、1981)。

5.12 処女性

ニューギニア社会を別にすると、思春期前後の性行動を禁止する社会では、女性の処女性を重視する考え方が強く見られる。 (須藤 1988: 57)

5.12.1 グルド族(トルコ)

ギリシアなど地中海諸国やイスラム教の世界では、結婚時の花嫁の処女性が大きな問題となる。トルコのグルド族では、花婿と花嫁が性交渉したとき、「結婚式の布」に血がついているか否かを調べる。処女であることがわかれば、その布を指にかけ村中を練り歩く。その後で、婿方から結納金が支払われる。

5.12.2 ニャキュサ(タンザニアのイスラムの影響を受けた)

処女であることが婚資の多寡を決定するという。

Malinowski, Bronislaw. 1922. Argonauts of the Western Pacific. London: Routledge; Kegan Paul.

Mead, Margaret. 1935. Sex and Temperament in Three Primitive Societies. New York: William Morrow; Company.

植島啓司. 1998. (新版)男が女になる病気. 集英社文庫. 集英社.

須藤健一. 1988. “ジェンダー・性・セクシュアリティ.” In 現代社会人類学, edited by 合田 濤. 弘文堂.